違います、あきれてるんです


 王泥喜君は詰襟が似合いそう。でも、響也には是非ブレザーを。大庵が詰襟だと凄く昭和の香りがしそうで困ります。
 高等部がブレザーで、中等部が詰襟の学校とかあるのだろうか(苦笑 でも是非そんな学校にしてください。


 ああ、もうまた絡まれてる。
ただでさえ、貴方は目立つって言うのに自覚がまるでないんだから。

 王泥喜は、一部の連中がサロンと呼んでいるエントランスに響也の姿を見つけて眉間に皺を寄せた。こんな遠目でも、綺麗な金髪や整った顔立ちがはっきりと見てとれるほど、彼は人目を引く。
 編入が難しいと言われてる此処に、ほぼ満点で転入してきて(それも、失点は、日本語がまだ上手くないからって。…出来過ぎだ。)、おまけに、どこかの芸能事務所にでも所属してるのかと思うようなスタイルと貌だち。一部の女子達は王子さまなんて呼んでるみたいで、こうして知り合いになる前から(中等部に在籍している)俺でさえ彼のことは知っていた。

「君みたいにチャラチャラした人間がいると学校の品位に係わるんだ。人間性なんて通学している君の外見では世間は判断しないからね。」
 牙琉響也を囲んでいる奴らの中心にいる男は、彼が転入してくるまでは高等部で首席だった男。俺もチャラチャラした奴なんて大嫌いだけど、こういう難癖をつける奴らはもっと嫌いだ。ひとりじゃ何も言えないくせに。
 しかし、響也さんは碧い瞳を真ん丸にして、奴らの言い分とやらを聞いていた。困った貌も、怒った表情もしていないところが彼らしい。
「もう少し自覚を持ってもらわないと、学生全員が君のような非人格者だと思われる。」
「う〜ん。君らの言い分も理解出来るんだけどね。」
 そうして、響也さんは顎に指を置いて考えるふりをしてみせた。ふりだ、ふり。あの人はこんな事真剣に考えるような人じゃない。
「特に先生方からも指導は受けてないし、君らと変わった事、してるつもりはないんだけどね、勉強も含めて。」
 にこと笑う貌がアイドル並みに爽やかだけれど、僕と君ら何処が違うのかな?と狡い笑顔が相手を追い詰めている。
「それは、君が首席だから…」
「でも、前は君が首席だったんだろう? 何か特別なことしてもらってたの?」
 
 ぐうと息を飲む様子に、王泥喜は吹き出しそうになった。そして、その集団に向かって声を掛ける。

「すいません! 牙琉さんいらっしゃいませんか〜!」
 ぱっと、笑顔で振り返る。無防備に手を振る姿は、年上の男じゃないよなぁ。
「あ! オデコくん、此処、此処! 今行くから」
 床に置いていた鞄を手にとって、響也は背中の集団にじゃあと告げて、こっちに向かって走って来るのを見届けて王泥喜も歩き出す。程なく横に肩を並べた響也には、斜めに視線を送った。
「何やってるんですが、ああいう連中の方が切れたら何するかわかりませんよ?」
「知らないよ。帰ろうとしたら、話があるって引っ張ってこられたんだもん。」
 ちらと向けられた悪戯な視線に、王泥喜は、響也が自分が迎えに来て欲しかったのだろうと理解した。まったく、こちらの愛情を確かめたいなんて、本当に子供みたいな人だ。
「でも、助けに来てくれたんだろ。ひょっとして、僕の事好き?」
 そう告げた響也の言葉に、王泥喜は小さく溜息をついた。

「違います、あきれてるんです。」

 そうして、ガッカリした顔に向けて、不意打ちにキスをする。



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